婚姻届出は必ず必要か?-不法滞在中の場合-
現在不法滞在中の方が,日本人や永住者の方の配偶者として,入国管理局へ出頭したうえ在留特別許可を希望する場合,事前に必ず婚姻手続きを行っておく必要があるのでしょうか。
結論としては,配偶者ビザの取得を希望する場合は,原則は事前に婚姻手続きを完了させ法律上婚姻関係になっていることが必要です。
ただし,事情によっては,婚姻手続きが完了していない状態でも,在留特別許可が出る可能性もあります。
事務所の勉強会で,議題にあがった過去の事例を紹介しますね。
※名古屋高等裁判所平成30年2月28日判決の事例を,かなり簡素化して紹介しています。
申請者は,日本人と結婚していましたが,平成25年12月に日本で離婚届を提出しました。この頃,申請者は在留期限が過ぎてしまい不法滞在となりました。
その後,日本人のAさんと知り合い,平成26年3月頃から交際し,同居生活を開始しました。
申請者とAさんは結婚することを考えましたが,申請者は,フィリピンでは前の日本人と婚姻状態であり,それを解消しなければ日本で結婚することができないと日本の市役所から言われました。
フィリピンでの離婚手続きのため,夫婦協力して手続き費用を貯めていましたが,その最中,申請者は平成27年11月に逮捕され12月には退去強制処分がでました。
平成28年5月,申請者は仮放免されました。仮放免中も,Aさんと生活を続け,専業主婦として家庭を支えていました。
その後,申請者夫婦はフィリピンの弁護士へ頼むなど,最善策を尽くしましたが,どうやってもフィリピンの離婚手続きは進まず,完全に保留状態となってしまいました。
簡単に時系列にすると,以下の通りです。
・平成25年12月 日本人の前夫と離婚 この頃,オーバーステイになる
・平成26年3月 日本人のAさんと知り合い,同居生活開始
・その後,結婚するために夫婦で必死に努力する
・平成27年11月 逮捕,退去強制処分
裁判所は,平成27年の退去強制処分が出た時点では,婚姻手続きこそできていないものの,申請者とAさんの状況から,安定した夫婦関係が成立していると認定しました。
申請者とAさんが婚姻届けを出せていないことは,夫婦関係を否定する事情にはならず,むしろ,精一杯努力してきたことは,プラスの事情になると判断しました。
そして,その他の事情なども考慮し,入国管理局がした退去強制処分は違法だとしました。
この事例では,婚姻手続こそできていないものの実質的には夫婦として生活し,互いに支え合い助け合って3年以上生活してきたことが,プラスに評価されています。
確かに,婚姻できておらず法律上は夫婦とはなっていませんが,実態は内縁関係にある夫婦として認められています。婚姻手続きができているかという点にこだわらず,夫婦の関係性や真摯な努力が認められた例として,参考になる事例でした。